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『ASAKUSA E (浅草へ)/Orientation 50°Nord』カタログ(1991) 所収私は、絵画は二つの要素、つまり「物質とイリュージョンの関係そのもの」と考えている。イリュージョンとは、古典から近代の絵画において確立されてきた遠近法による空間表現、明暗と色彩によるボリューム表現等を指し、物質とは漆喰壁とテンペラ、板と油絵具、キャンバスとアクリル絵具といったものを指す。が、ここでもうひとつの“絵画における物質性”を忘れてはならない。それは絵画が獲得した物質性、つまり、セザンヌから始まり、フランク・ステラのミニマルで到達した絵画のことである。
セザンヌはイリュージョンを圧縮して絵具(色)とタッチといった物質に接近し、ステラは絵画からイリュージョンを剥がし取ってしまい、物質だけを残した。
ここまでの絵画の歴史的展開は頂点に達した感がある。
しかし、いまだかつて絵画において物質とイリュージョンが正常な状態で共存する例を見いだせないのである。
絵画が今後、飛躍的に豊かな展開をする鍵は、まさに物質とイリュージョンが正常な状態で共存する状態をつくり出すことである。