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“俳句とデジタル・カメラ”
International collaboration
—瞬間からの細道—

水留 周二、小向 伊知郎、平岡 王敬、水留 草太、徳田 智子、森 健太郎


会期:2012年12月7日---12月20日

作家名:水留 周二、小向 伊知郎、平岡 王敬、水留 草太、徳田 智子、森 健太郎
     ミズトメ シュウジ、コムカイ イチロウ、ヒラオカ キミタカ、ミズトメ ソウタ、トクダ トモコ、モリ ケンタロウ

形態・素材:インスタレーション
画像、サウンド、鉄板、ドラム缶、発泡スチロール、フラスコ、水、ビニールチューブ、モニターテレビ、DVDプレーヤー、ほか

主催:NPO法人 ICAEE/国際現代美術交流展実行委員会
企画:水留 周二
企画制作: (有) 水留造園  協賛:YOMOGI

展覧会DM

(photo:S)

「俳句とデジタル・カメラ」 —瞬間からの細道ー

 盛夏40℃。コンクリートの厚壁とアスファルト舗装の接線に、10数本の背高泡立草が背くらべをしていました。その光景が運転する私の目をとらえ、10数枚の写真を撮りました。再び発車する私の脳裏に、なぜか松尾芭蕉の「夏草や 兵どもが 夢のあと」が浮かんで同時に3・11東北が思い起こされたことを鮮やかに記憶しています。
 この一瞬が本企画の原点です。さらに「閑さや 岩に染み入る 蝉の声」を何度もつぶやきましたが、静かになった福島に鳴り響く蝉の声を想像できなかったことの、もどかしい私の感覚が一歩といえるのかもしれません。
 デジタルの時代といわれてから20数年ほどになります。いつの時代も道具の発見が人間や社会を大きく変化させてきたことは周知の事実です。土器、鉄器、蒸気、電気、原子力、デジタル、いずれも人間の価値観を根本から揺さぶり、後戻りは許されませんでした。デジタルがどんな人間や社会を作っていくのかは、発展期の今に立ち会う私達にかかっています。
人種や文化、世代を横断する多角的なコミュニケーションを実現する以外に、その方法はありえないのではないでしょうか。
 東北は、津波と原発、つまり自然と科学の二つの破壊力によってすべてがゼロになりました。テレビで映し出される映像は、悲劇という言葉さえ容易に使えないほどの恐怖の連続でした。デジタル通信によって世界中に情報が発信され、たくさんの援助が寄せられました。マスメディアや国家というものではすくい上げられないものを、多くの人々が自ら発信者となって今も声を訴えにしようとしています。
 一方グローバル・ネットワーク社会が生み出した歪みは、新たな社会現象であり、人間の心や命にまで及ぶ深刻な問題です。いじめ、虐待、ウツ、自殺、孤立、詐欺・・・ネガティブなキーワードが時代を暗くしています。松尾芭蕉は自らの足で全国を歩き、17文字に凝縮して世界を描写しました。その芭蕉がつけた細道は今度の東北にも表現の力を届けました。
 私たちは今回、デジタル・カメラに注目しました。この道具を使って世界を写し撮り、芸術の場で写真に息を吹き込みたいと考えたからです。際限なく撮影ができ、また消費されていくデジタル写真に、一瞬のブレーキをかけることで見えてくるものがあると思えるからです。津波の後、浜辺でかけがえのない家族の写真を捜し求める姿を見て、いかに写真が人間にとって重要なものであるかを再
認識しました。
 逆説的ではありますが、ガレキで埋まる浜辺を打ち消すほどに強くてフレッシュなインスタレーションを私たちが立ち上げることで、写真による描写力を再問題化できるのではないでしょうか。
 日本各地はもちろん、世界各地のアーティストにも呼びかけ、写真をギャラリー・サージ(東京)に寄せてもらうよう依頼しました。私たちは3つのテーマを設けました。
 1. 広島の憂鬱としての sky
 2. 東北・福島から失われたものとしての shadow
 3. 永遠に生をリレーしていくものの象徴としての grass
 インスタレーションの具体的な構造はおおよそ以下のようなものです。 
鉄で組んだドームの天井にスクリーンが張られ、skyがプロジェクターによって投影されます。その下には風車が回転します。
 アルブレヒト・デューラーの有名な絵画「メランコリーI」から引用した多面体、高さ2.5 メートルの部屋の内壁にモニターがセットされ、そこにはshadowが映し出されます。鉄板とスクリーンで構成された掛け軸に grassが投影され、さらにその写真は水滴で回る水車によって回転する鏡面に反映します。
 デジタル・ネットの時代だからこそできるダイナミックなコラボレーションをここに実現します。政治、経済、倫理までもが衰退しています。瀕死の東北が津波による特異点のように映っていますが、おそらくこれに近い現況が世界各地に広がっているのではないでしょうか。芸術とは本来、感覚や思考の純度やダイナミズムを問う場です。歴史を振り返れば、それがいつも人と人の緊迫した交流を積み重ねることで成し遂げて来たことが証明されています。芸術はおそらく、科学や思想のさらにべースの部分を繰り返し問い返す作業であるといえます。21 世紀を生きる私たちが新しく手に入れた打出の小槌、デジタルを片手に、この行き詰まりを見せる世界に、芭蕉が作り出したような細道を発見しなければなりません。本展はそのための活動であり、小さな第一歩です。ここギャラリー・サージは80年代からそのような活動をし続けてきた場所であり、さらに本企画でギアチェンジを実現し、新たな展開を目指し再構築したいと思っています。
 一人でも多くの人がここに来て、多くを語り制作し、考えやアイデアを発信する場になればと願っています。(企画者 水留 周二)

◼︎参加アーティスト
【日本】 
伊東 直昭、伊藤 七男、大貫 友也、岡田 眞喜子 、小川 秀美 、小川 実和子、佐々木 薫 、高嶺 元、田制 可奈子、土屋 穣、徳田 智子 、中村 真之介、坂東 正章、福田 亜希子 、松枝 秀晴、三宅 康郎、森 健太郎、松野 浩、松本 明利、水留 歩、水留 周二、水留 草太、八百板 力、安江 美枝 、山口 隆志、山口 真理子、山田 和夫、吉田 浩 、よしだ れいこ
【オランダ】
アネッケ・A・デ・ブーア、パウル・パンハウゼン、ヘレン・ハルショフ、ニールス・ポスト、ソフィー・デ・ヴォス、マルレーン・ファン・ヴァインハーデン 
【べルギー】
イブリーヌ・デュブュック、カトリーヌ・ワルモー、テレーズ・ショットー、ベルナール・ヴィレール、モニカ・ユボ、ベルナール・ユボ、マリア・ブロンディール、リエフ・ドゥウォント、マーク・デ・ビレック


作品資料:
展覧会DM(表)


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