第2回 絶空の連体詩

水留 周二(美術家)

この部屋を出て坂を下った所に、青野剛三の作品が天上に伸びている。樹脂で出来たパーツが結合され、暗い中空で上昇のムーブメントが張り詰めている。その横には、伊藤七男の万葉の光を思い起こさせる作品がある。ピンクに染色された薄い布地に、花ビラが点描されたスクリーン上に、月のように丸い光が投影されている。山を背負った厚い壁とのコントラストが、一層遥かなものを感じさせる。
中央の巨大な柱を取り巻いて、西雅男と、私、水留周二の作品がある。西の作品は、ブルー調のタブローの上に一本の流木が掛けられたものである。一つの世界を演出するこの大谷の空間で、西は、それに匹敵する世界を、この敢えて小さな作品に結実させようとしているのだろうか。次に、私の作品は、ノミで何かを探り当てるかのように柱材を掘り続けては、時を逆回しに、彩色を一つ一つのタッチに施し、繰り返したものをインスタレーションした作品である。
その横に、林宏の鮮やかなイルミネーションの作品がある。原色の蛍光塗料がブラックライトに輝いて、ファンタジーを創設している。向き合った壁には、松本明利の木版のコンセプトを睨んだ大作がある。繋ぎ合わせた合板の表面を彫刻刀ではがし、墨と和紙で豊かな表情に増幅させた作品である。大谷石の微妙な表面との干渉に、立ち止まって耳をすましてしまう。

振り返って、向こうの暗い壁に近づくと、そこには大塩博美の作品がある。機械掘りを裏付けるカッターの跡一本一本に、白い紙粘土を象眼していったものである。シンプルな作業の積み重ねが、見る人の想像力を誘う。その横に、×印の赤いネオン管がひときわ目立つ、高橋理和の作品がある。そして、たぶん彼の日常生活の中で拾集されたボート、交通標識、建築廃材等が、×印に引き込まれるように構成されている。常に何かに動かされている日常の不安を、一層かき立てられる。
その隣に、大きな空間全体を意識した、土屋穣の作品がある。和紙とパラフィンとバーナーを用い、痕跡をテーマにしている。瞑想の時間を炎の痕跡に物質化した、静謐な作品である。わずかに、テーブルの上の和紙の焦げ跡に落下する水滴の音が、現在を刻む。

以上が、「絶空の連体詩」を観ての私の印象である。

ここに、社会に認知された場での作品に対して、違うベクトルの作品が生成した。それは、様々な野外展、生活環境にアダプトした作品とも性格を異にしている。暴力的に高速化する日常の流れの中で、世界が感得しがたいものになっている。生活と欲望のままに掘り続けられた結果として現前した空間が、神秘を獲得するほどに強烈に存在する。この圧倒的な世界模型の中での作品体験は、何よりも精神の蘇生を契機づけるものであった。

『大谷地下美術展1984~1989』p.14-15

関連展覧会:
  • r04 第2回 大谷地下美術展 「絶空の連体詩」


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