第1回 地下25mの超気骨

水留 周二(美術家)

入り口のすぐ左の壁面に、松本明利の巨大な木版がある。薄いブルー調の大谷石に、白黒のコントラストが冴える。その横に勝田徳朗の羽根のような作品が林立する。赤と緑のドローイングが投光器の光に反射する。その横の暗い壁面の前に大森博之の鮮やかなドレスのような作品が浮かぶ。原色に染められた布紐を編んで作ったものである。冷たい光と空気で、一層なまめかしく映る。

そこを右に曲がった所に坂東正章の作品が設置された。木を組み合わせて作った鹿のような彫刻をメインにした、ファンタジックともいえるインスタレーションである。その横に大塩博美の、波トタンや鉄板を小さな住居のように構成した作品がある。金属空間の振動が、石の空間に反響する。その奥の小さな坂を登り、右に曲がるとそこは一つの大きな室であり、天井の角の割れ目から外光が差し込んでいる。

そこに私の作品がインスタレーションされた。丸く掘った池に水を張って原初性を演出し、金属や木を散在させ、光を屈折させることによって、時間の痕跡をドラマチックにテーマ化したものである。元に戻って大塩の作品を過ぎると、岩崎元朗の作品がある。中空に白い傘が浮かび、肉塊が宙吊りにされている。さらに床には、鶏小屋のような物があり、靴を履いた小さな木の椅子もある。何か彼の記憶にかかわる物語性を感じる。その隣に唐突に錦鯉の模型が、床に群れをなして並べてある。林宏の作品である。彼はここに、異次元の何を夢想したのであろうか。

その隣には、八百板力の赤、青、ピンクで彩られた圧倒的な色彩空間が展開されている。イメージと現実の2種類の祝祭空間が拮抗する。次に、高橋理和の作品がある。十字架のような柱に、恐らく拾集物であるタイヤのチューブ、古着、ビニールホース等が掛けられ、ライトアップされている。反対の壁の前に、伊藤七男の作品が設置されている。点描されたパネルを立体構成し、作品の中心部に蝋燭の光が揺らめいている。パネルにはドリルの穴が、無数に穿たれていて、そこから漏れる光が石の壁に揺れるシルエットを描いている。

以上が、私の目に映った作品の印象である。

10年前の出来事であるが、今も、その光景が鮮烈に蘇る。恐らくそれは、管理化された展覧会ではなく、緊迫した生活体験にある覚醒が、記憶に作用したからであろう。

『大谷地下美術展1984~1989』p.12

関連展覧会:
  • r02 第1回 大谷地下美術展 「地下25mの超気骨」


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